日本の高齢化が進む中、介護業界は深刻な人手不足に直面しています。この状況を打開するため、多くの介護施設が外国人材の採用を検討しています。

特に訪問介護の分野では、特定技能外国人材の解禁が期待されているところです。しかし、現在のところ特定技能制度は施設介護に限定されており、訪問介護分野での適用はまだ実現していません。

そこで本記事では、訪問介護における特定技能解禁の最新動向と、その実現に向けた課題などについて詳しく解説します。

訪問介護における特定技能制度の現状


訪問介護は、利用者の自宅に訪問して介護サービスを提供するもので、高齢化が進む日本では非常に重要な役割を担っています。

しかし、現状では特定技能外国人材はこの分野での雇用が認められていません。特定技能制度は施設介護を中心に設計されており、訪問介護に特化した外国人材の受け入れには至っていないのです。

一方、厚生労働省ではいよいよ特定技能の訪問介護解禁に向けた動きも見られます。次章以降では、介護業界全体の現状や訪問介護解禁の最新情報について、より具体的に解説していきます。

介護業界は慢性的な人手不足に

人口の高齢化に伴い、訪問介護含め介護人材の確保は急務となっています。 厚生労働省によると、2025年度には約243万人2040年度には約280万人の介護職員が必要と推計されています。

出典:厚生労働省「介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進について」

国はこの対策として、介護職員の処遇改善、離職防止、定着促進、生産性向上に加え、外国人材の受け入れ環境整備に取り組んでいます。

訪問介護員の人手不足について

全国8,708介護事業所及び19,890名の職員が回答した『令和4年度介護労働実態調査(公益財団法人介護労働安定センター)』によると、訪問介護で介護員が不足していると答えた事業者及び職員は83.5%であり、全体平均66.3%と比較して約17%も高い結果となっています(令和4年度)。 出典:公益財団法人介護労働安定センター「令和4年度 介護労働実態調査結果」

つまり、訪問介護の人手不足は介護業界全体の中でも特に深刻な状況です。

この大きな課題の解決のためには外国人材の活用が急務とされており、国は制度改正に向けて動いています。

訪問介護に従事できる在留資格、従事できない在留資格

訪問介護は、特定の在留資格を持つ外国人のみが従事できる業務です。現在、日本で介護業務に従事できる在留資格は以下の4つがあります。

・EPA(経済連携協定)介護福祉士候補者
・在留資格「介護」
・技能実習
・特定技能1号


出典:厚生労働省「外国人介護人材受入れの仕組み」

一方で、訪問介護に従事できる在留資格、そうでない在留資格があるため、それぞれの制度の特徴と違いを解説します。

EPA(経済連携協定)介護福祉士候補者

概要:
EPA(経済連携協定)に基づき、インドネシア、フィリピン、ベトナムからの候補者が対象です。来日後、介護福祉士国家資格の取得を目指し、介護施設での研修や業務を行います。

訪問介護への従事:
研修及びOJTの実施やマニュアルの作成、一定期間のサービス提供責任者等による同行訪問など、一定の条件を満たせば訪問介護サービスへの従事が可能です。また、介護福祉士国家資格を取得すれば、後述の在留資格「介護」に変更ができ、訪問介護事業所で働くことができます。資格取得から従事開始までの流れは以下の通りです。

1. 2年以上の養成施設修了または3年以上の就労・研修を経て国家試験を受験。
2. 介護福祉士資格を取得し、訪問介護での業務が可能になります。

在留資格「介護」

概要:
在留資格「介護」は、上述のとおり、介護福祉士国家資格を取得した外国人に与えられます。この資格があれば、日本で長期間にわたり介護業務全般に従事することが可能です。

訪問介護への従事:
介護福祉士資格を取得しているため、施設内介護だけでなく、訪問介護にも従事できます。また、家族の帯同や在留期間の更新が可能で、将来的に永住権取得も視野に入れられる点が特徴です。

技能実習

概要:
技能実習制度は、母国への技能移転を目的としており、在留資格「技能実習」を持つ外国人が対象です。介護分野では、最長5年間の技能実習が認められています。しかし、今後技能実習制度は廃止され、育成就労制度への移行と、後述する特定技能制度への集中が想定されます。

訪問介護への従事:
技能実習生は、あくまで「技能を学ぶ」という趣旨のため、訪問介護には従事できません。施設内での介護業務に限られ、訪問介護事業所での就労は認められていません。

特定技能1号

概要:
特定技能1号は、人手不足の分野で一定の技能と日本語能力を有する外国人に与えられる在留資格です。特定技能制度は、2019年4月に導入され、介護分野も対象となっています。

訪問介護への従事:
特定技能1号では、訪問介護への従事は認められていません。特定技能1号での業務は施設内介護に限定されており、在留期間は通算5年までです。特定技能2号に移行すれば在留期間の上限がなくなりますが、現時点で介護分野は特定技能2号の対象外となっています。しかし、ようやく特定技能1号にも訪問介護が解禁される予定で、詳しくは後述します。

【2024年最新】特定技能で訪問介護がいよいよ解禁


厚生労働省は2024年6月19日の有識者検討会で、特定技能の外国人材も訪問介護サービスに従事することを解禁する方針を決めました

これにより、現在は介護福祉士の資格を持つ経済連携協定(EPA)締結国の出身者と在留資格「介護」の人に限られている訪問介護の従事者に、特定技能の外国人材も加わることになります。

要件や介護事業者の順守事項などを固め、2025年度からの実施を目指しています

具体的に、2024年6月26日の有識者検討会では、
外国人介護人材の訪問系サービスの従事について、日本人同様に介護職員初任者研修を修了した有資格者等であることを前提に、ケアの質や権利保護等の観点から、事業者に対して一定の事項について遵守を求め、当該事項を適切に履行できる体制・計画等を有することを条件として従事を認めるべきである。
という結論に至りました。事業者に求める措置として、具体的に以下5つの事項の遵守を求める方向となりそうです。
① 受入事業者が行う外国人介護人材への研修については、EPA介護福祉士の訪問系サービスで求める留意事項と同様に、訪問介護の基本事項、生活支援技術、利用者、家族や近隣とのコミュニケーション(傾聴、受容、共感などのコミュニケーションスキルを含む)、日本の生活様式等を含むものとすること。
② 受入事業者は、訪問系サービスの提供を一人で適切に行うことができるように、一定期間、サービス提供責任者等が同行するなどにより必要な OJT を行うこと。回数や期間については、利用者や外国人介護人材の個々状況により、受入事業者により適切に判断すること。
③ キャリアアップに向けた支援が重要になるところ、受入事業者等は外国人介護人材の訪問系サービスを実施する際、外国人介護人材に対して業務内容や注意事項等について丁寧に説明を行い、その意向等を確認しつつ、外国人介護人材のキャリアパスの構築に向けたキャリアアップ計画を作成すること。
④ ハラスメント対策の観点から、受入事業所内において、
・ハラスメントを未然に防止するための対応マニュアルの作成・共有、管理 者等の役割の明確化
・発生したハラスメントの対処方法等のルールの作成・共有などの取組や環境の整備
・相談窓口の設置やその周知等の相談しやすい職場環境づくり
・利用者・家族等に対する周知等の必要な措置を講ずること。
⑤ 外国人介護人材の負担軽減や訪問先での不測の事態に適切に対応できるようにする観点から、介護ソフトやタブレット端末の活用による記録業務の支援、コミュニケーションアプリの導入や日常生活や介護現場での困りごと等が相談できるような体制整備など、ICT の活用等も含めた環境整備を行うこと。
また、特定技能に加え、技能実習とEPAに基づく介護福祉士の候補者も解禁される見込みです。

現在、この3資格で介護現場で働いている外国人材は、約4万6000人に上ります。

訪問介護が解禁されれば、当然外国人の介護人材はこれ以上に増える見込みで、介護業界の深刻な人手不足の解消に大きな期待が寄せられています

特定技能の訪問介護解禁の影響が大きい介護施設は?


現在、特定技能1号では訪問介護への従事は認められていませんが、上述のとおり今後訪問介護が解禁されれば、人手不足が深刻化している介護業界に大きな影響を与えると考えられます。 特に、以下の施設での需要が高まることが予想されます。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)

サ高住は、比較的自立した高齢者向けの賃貸住宅で、見守りや生活支援が提供されます。入居者の要介護度が進んだ場合、訪問介護サービスを利用することが一般的です。
訪問介護解禁のメリット
人手不足の解消:特定技能外国人が訪問介護に従事できるようになれば、サ高住での訪問介護員の不足を補えます。特に、都市部や過疎地では人材確保が難しいため、大きな支援となります。

サービスの向上:
若くて日本語に対応できる人材が増えることで、入居者にとって質の高い介護サービスが期待できます。

長期的な雇用:
特定技能制度は、最長5年の在留期間があり、安定した雇用が見込めます。定着率が向上することで、施設運営の安定化に繋がります

住宅型有料老人ホーム

住宅型有料老人ホームは、介護サービスが付帯しないものの、訪問介護や訪問看護などの外部サービスを利用しながら生活する施設です。入居者の要介護度が上がると、訪問介護サービスの利用が欠かせません。
訪問介護解禁のメリット
柔軟なサービス提供:特定技能外国人が訪問介護を担えるようになると、より多くの入居者が必要な介護を受けられるようになります。柔軟な対応が可能となり、サービスの充実化が図れます。

コスト削減:
訪問介護人材が増えれば、人件費の高騰を抑えることが期待できます。経営の安定化に繋がるでしょう。

入居者満足度の向上:
介護人材が増えることで、入居者一人ひとりに合わせた丁寧なケアが可能になります。施設の質が向上し、入居者の満足度も上がります

外国人材の訪問介護解禁で想定される課題


上述のとおり、今後は特定技能の外国人材などで訪問介護の解禁が進むわけですが、事業者や介護員など現場からは不安の声があがっているのも事実です。

以下3つは、訪問介護解禁で特に懸念される課題です。

利用者との意思疎通や対応スキル

訪問介護は、介護者が利用者の自宅に赴き、日常生活の支援や身体介護を行う業務です。

このため、介護者が単独で行動する場面が多く、利用者とのコミュニケーションが非常に重要です。外国人介護者がこの業務を行う場合、日本語能力や文化的な理解が不足していると、業務遂行に困難が生じる可能性があります

また、訪問介護では、利用者の個別ニーズに応じた対応が求められます。

これには、日本の生活文化や習慣への深い理解が必要であり、外国人介護者が適応するには時間がかかる場合があります

さらに、緊急時の対応や医療的な知識が必要とされる場面もあり、これらのスキルを持つ外国人材の育成が課題となりそうです。

雇用側のサポート体制

訪問介護分野で外国人材を雇用するには、企業や介護事業者が適切なサポート体制を整えることが不可欠です。

具体的には、業務に必要な日本語能力の向上支援や、文化的な違いに対する理解を深めるための研修やトレーニングなどです。

また、外国人介護者が訪問介護での業務に適応できるよう、現場での支援体制を強化することが求められます。

しかし、ただでさえ人手が足りない中で教育体制を整えることは簡単ではなく、後述する登録支援機関などに一部サポートを依頼することをおすすめします。

外国人による自動車の運転

訪問介護では、介護員が一人で車を運転して利用者の自宅を訪問することが一般的です。

しかし、外国人介護員は日本の運転免許を持っていないことが多く、その場合、日本人の同僚と同行したり送迎が必要になったりします

このため、訪問事業所にとって費用負担が増える可能性があり、外国人材の活用が進まないのではという懸念の声があります。

来日後に自動車教習所に通い免許を取得する外国人もいますが、それには時間と費用がかかるため、この点も課題の一つです。

特定技能制度における登録支援機関の役割


特定技能外国人材を採用する際には、登録支援機関のサポートが不可欠です。

登録支援機関は、特定技能外国人材の採用から定着までを全面的にサポートする第三者機関として、多くの介護事業者が利用しています。

入国前の事前ガイダンスや入国時の送迎およびサポート、住居確保や生活支援、日本語教育の機会提供など、外国人介護者が安心して働ける環境を整えるための包括的な支援を提供しています。

全てを自社で内製化することも可能ですが、特定技能外国人材を初めて受け入れる場合は非常にハードルが高く、ビザ申請時の必要書類等も膨大なため、基本的には登録支援機関を利用する事業者がほとんどです。

一部業務を登録支援機関に任せることで、事業者は特定技能外国人材の受け入れに集中でき、外国人材を活用した訪問介護業務をスムーズにスタートさせることができます。

また、登録支援機関を選ぶ際は、介護業界での紹介/支援実績が豊富で受け入れノウハウを持っている事業者を選ぶようにしましょう。

外国人の介護人材採用はFuntocoへ


登録支援機関である「Funtoco」は、特に介護業界における特定技能人材の紹介や支援業務、各種相談業務を強みとしております。

弊社では、累計1,000名以上の特定技能外国人を介護事業者様にご紹介してきました。日本で初めてミャンマー人の特定技能ビザを介護分野で取得したのも、Funtocoです


また、圧倒的に高い定着率が強みで、弊社が紹介する特定技能外国人の定着率は全業種平均で85%以上、介護分野にいたっては90%以上となっています。

ビザの取得には一定の期間が必要なため、訪問介護で特定技能外国人の活用を検討したい事業者様は、早めに動き出しておくことをおすすめします。